車窓に映る私の向こう

先日の仕事の帰り、まだ夕方の通勤ラッシュの時間だったから結構混んでいて、座ることができませんでした。始発駅でもないかぎり、たぶん座ることなんて絶対に無理です。あとは、たまたま自分の前の席が空いたときにしか座れません。先日は結局、ずーっと立ちっぱなしでした。だから、電車での読書タイムはナシでした。
その日、何気に正面の窓を見ていたら、自分自身が映っていまいた。「お化粧がとれてない?」とか「疲れた顔をしていない?」なんて思って窓に映る顔を見ていました。そうして、自分自身を見ていたら、私の向こうに夜景があることに気づいたんです。もちろん、初めから車窓には景色が見えていたはずなんです。でも、人の目って不思議ですよね。見ているものしか見えないんです。さっきまでは窓には私の姿しか見えていなかったのに、意識が変わると夜景がはっきりと見えてきたんです。川が流れていてそこに灯りがいくつも見えました。そして、それを見ていたら、なんだか懐かしい気持ちになったんです。この雰囲気って、あの小説の雰囲気だって思い出したんです。頭の中に浮かんだのは、本の表紙のカバーです。実際に、その小説のカバーがその夜景みたいだったのかどうか……。家に帰ってからすぐに本棚を探しました。そしたら、驚くことに、これだって思っていた本は全く違う表紙でした。イメージって自分で作り上げてしまうものなんですね。きっと、その小説のストーリーとあの夜景に何か重なるものがあったのかもしれません。